フォークリフトのバッテリーには主に鉛蓄電池が使用されていますが、鉛蓄電池ならではの注意すべき点がいくつかあります。その一つが、バッテリー液の補充の際には精製水を使用することです。
「なんで、いちいち高価な精製水を使わないといけないの?」といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるかと思いますので、今回はその点について説明します。
目次
フォークリフトのバッテリーの仕組み
まず、「バッテリー」とは何でしょう?端的に言うと、化学反応のエネルギーを電気エネルギーに変える装置が「バッテリー」であるといえます。
バッテリーの構造
世の中のバッテリーは一般的に、2種類の金属と電解液で構成されています。
この2種類の金属は、正極と負極としてそれぞれ機能します。また、これらの金属は電解液に浸されている状態になっています。
バッテリー内で電気が流れるには、電子が負極から正極に移動する必要があります。まず負極は、自身がイオンとなって電子を放出する役割を持ちます。また正極は、負極から流れ込んできた電子を受けとる役割を果たします。
負極から放出された電子は、導線を伝って正極に移動します。この際に、バッテリーに電気が流れる(放電する)仕組みになっています。
鉛蓄電池の放電
フォークリフトのバッテリー(鉛蓄電池)は、電解液である希硫酸(硫酸+水素)の中に、正極・負極の電極板がそれぞれ浸されています。負極の電極版には鉛が用いられ、正極の電極版には二酸化鉛(酸素+鉛)が用いられています。
STEP①:負極板である鉛を電解液(希硫酸)に浸すと、鉛は硫酸と結合しやすい性質があるため、鉛は自ら持っている電子を手放して、代わりに硫酸とくっつこうとします。 その結果、負極の鉛は希硫酸内で溶け出して、鉛イオンと電子が発生します。
STEP②:①の鉛イオンは希硫酸液中の硫酸イオンと結合して、「硫酸鉛(サルフェーション)」という固体になり、負極板表面に付着していきます。 また、①のとおり希硫酸(硫酸+水素)は鉛と引き合って硫酸鉛となるため、硫酸濃度は下がっていき、逆に水素はどんどん増えていきます。 ①の電子は、正極と負極を繋いでいる導線を伝わって正極である二酸化鉛の方へと移動します。
STEP③:正極である二酸化鉛に含まれる鉛イオンが②の負極から流れてきた電子を受け取ります。鉛イオンは、希硫酸中の硫酸イオンとくっつき、硫酸鉛(サルフェーション)となります。
その結果、二酸化鉛から酸素が手放されることになります。 つまり、正極表面にもサルフェーションが付着し、②の水素と二酸化鉛から手放された酸素が結合して水となります。なお、負極である鉛と比べると、正極の二酸化鉛はイオンになりにくいため、サルフェーションの割合は負極よりもかなり少なくなります。
まとめると、放電によって水が生成され、希硫酸の濃度は薄くなり、また極版にはサルフェーションが付着するということになります。
鉛蓄電池の充電
電子を負極から正極に流して電流を発生させることが上記の「放電」ですが、それとは逆向きに電子を流すことを「充電」といいます。
STEP①:充電を実施すると、陽極板に付着した硫酸鉛は、電解液中の水と反応して酸化鉛に変化し、硫酸と水素を電解液中に放出します。このとき、水素から電子が引き剥がされ、陽極から陰極に向かって電子が移動します。
STEP②:負極板の硫酸鉛は、正極から流れ込んだ電子を取り込んで鉛に変化し、硫酸を電解液中に放出します。
STEP③:正極・負極の両極板から放出された硫酸と、正極板から放出された水素が結合して希硫酸になります。
まとめると、充電によってサルフェーションが分解されて硫酸が再度水に溶け出し、希硫酸の濃度が上がるということになります。 つまり、バッテリーは希硫酸内に含まれる硫酸が、化学反応によって極板と水の間を行き来することで放電や充電を行っているということになります。
フォークリフトのバッテリー液が減る理由

充電が進み満充電状態に近くなってくると、電気分解によって、電解液中の水が酸素ガスと水素ガスに分かれてしまいます。その結果、電解液量が減少します。
また、バッテリー液は液体のため、当然自然蒸発によって量が減ることになります。 液の減少は、温度が高ければ高いほど起こりやすくなります。
フォークリフトのバッテリー液が少なくなったときのリスク
バッテリー液が減りすぎると、バッテリーの電圧が極端に下がってしまいます。また、極板がバッテリー液に浸からず、空気に触れ続けるとその部分が劣化してしまい、前述の化学反応が起こりにくくなってしまいます。
もしもバッテリーが劣化してしまった場合、本体を交換する必要があるので費用がかさみます。また、極板が露出し腐食が始まると、火災の発生リスクも高まります。安全を確保するためには、バッテリー液の補充は欠かせません。
バッテリーを長持ちさせるためにも、バッテリー液の残量はこまめにチェックしましょう。特に夏場は、バッテリー液の温度が高くなりやすいため、こまめなチェックが必要になります。
フォークリフトのバッテリー液の残量を確認する方法

フォークリフトのバッテリー液残量は、モニターディスプレイや連携したスマホなどで確認することが可能です。残量が少ないことが確認できたらバッテリー液の補水を行いましょう。
また、1週間に一度、もしくは50時間稼働に一度の頻度でフロートも点検してください。液栓を閉じたままの状態で、赤色のフロートの位置を横から確認します。通常であればフロートは浮いている状態ですが、赤色のフロートが見えない状態であればバッテリー液が不足しているので補水が必要です。
決して難しい作業ではありませんので、バッテリー液の残量は定期的に確認をしてください。
精製水を使わなければならないのは、なぜ?

水道水には消毒等の目的で、「カルシウム」「マグネシウム」「ケイ酸」等の塩類あるいは有機物などの不純物が多く含まれています。
バッテリー液として水道水を補充してしまうと、不純物が極板に付着することで極版が劣化してしまい、その部分は鉛蓄電池本来の化学反応が起こらなくなってしまいます。 そのため水道水を補充してしまうと、バッテリーの寿命は確実に短くなります。
精製水は、水道水に含まれるさまざまな成分を取り除いた純度の高い水のため、極版の劣化を極力抑えることができます。 フォークリフトのバッテリーは決して安いものではないので、水道水によって劣化させてしまうのは非常にもったいないです。
とはいえ、精製水を都度購入して日々補充するのもコストや手間がかかってしまいます。 そこで、当店では水道の蛇口につなぐだけでバッテリー用精製水をつくることのできる、精製水製造装置を提案しております。興味のある方は、是非チェックしてみてください。
バッテリー液の補充は蒸留水でも良い?
バッテリー液の補充は、蒸留水を使っても構いません。フォークリフトのバッテリー液は精製水もしくは蒸留水を使って補水を行うので、蒸留水の使用も検討してみましょう。
蒸留水とは?
蒸留水とは純度の高いお水を指します。水道水を沸騰させた後、水蒸気を冷却したものを再び水に戻して作られています。蒸留水は水道水に含まれる一部の不純物が取り除かれていますので、微生物が繁殖しにくく腐りにくいのが特徴です。
蒸留水は不純物の少ない「純粋なお水」のため、様々なシーンで活躍しています。医療現場や科学研究、工業分野でも蒸留水は使われていますし、アロマや化粧品など水の性質によって製品の質が左右されるものにも蒸留水が活躍しています。
精製水と蒸留水の違い
精製水と蒸留水は純度の高いお水を作る工程がやや異なります。精製水はお水を沸騰させた後にろ過して水分中に含まれる不純物を取り除いています。一方の蒸留水は、お水を沸騰させて冷却した水蒸気を再び水に戻して作られています。
商品によってもやや工程が異なる場合もありますが、精製水の一種に蒸留水が該当すると覚えておきましょう。
フォークリフトバッテリーを長持ちさせる方法

フォークリフトのバッテリー液を補充することも大切ですが、バッテリーの寿命を長持ちさせる努力も重要です。以下のポイントを参考に、バッテリーを長持ちさせる方法を覚えておきましょう。
バッテリーを高温にしない
バッテリーの温度は、60度を上回らないように細心の注意を払いましょう。バッテリーが高温になりすぎると、本体の寿命が短くなってしまう可能性があります。バッテリーのメーカーにもよりますが、温度はおよそ14度〜50度をキープできるようにしてください。
使いすぎを防ぎ、しっかり充電する
液温度が高くなるのを防ぐために、バッテリーの使いすぎには注意してください。バッテリー液の温度が高く極板が剥き出しのままになると、故障の原因になりかねません。
バッテリーはきちんと充電することも大切です。容量計が付いているフォークリフトであれば、ディスプレイに使いすぎを知らせるメッセージが表示される場合があります。バッテリーの寿命を少しでも長くするためにも、しっかり充電を行いましょう。
補水は週1回行う
バッテリー液の補水は、週に1度ほどのタイミングで補水を行うことをおすすめします。バッテリー液の減少は、本体の故障や発火を引き起こす要因となるので、きちんと忘れずに補水しましょう。補水する際は、精製水や蒸留水を使用してください。
バッテリーに負荷をかけすぎない
バッテリーを労わるためには、負荷をかけすぎないように意識しましょう。たとえば、急加速や最大積載量の負荷がかかる長時間作業、走行中のリフトアップはバッテリーに負荷をかけやすいので避けてください。
また、押し込み作業やハイパワーモードの運転作業、フォークの先端を使った荷物の引き出し作業も負荷がかかりやすいです。バッテリーの寿命を高めるためにも、重度な負荷をかけないように心掛けてください。
火の気に注意
バッテリーをはじめとする電池は、火気により爆発性の水素ガスを発生する可能性があるので注意しましょう。フォークリフトそのものを火の気のある場所に近づけないほか、バッテリーの保管場所にも気をつけてください。
清潔を保つ
バッテリー本体の表面は、常に生活を保ちます。表面が汚れているとそこから腐食や漏電が起こってしまうケースがあるので「たかが汚れ」とは思わずにしっかりとお手入れを行いましょう。
掃除は水気のあるタオルで表面を拭く程度で構いません。本体を傷つけないためにも、化学ふきんやシンナーの使用は控えてください。
精製水や蒸留水で補水を行い、バッテリーの寿命を伸ばす努力をしよう

バッテリー液の減少は、バッテリーそのものを傷めてしまう可能性があります。バッテリーを長持ちさせるためにも、週に1回程度はバッテリー液の残量をチェックし、少なくなっていたら精製水や蒸留水で補水しましょう。
また、バッテリー液の補充だけではなく、普段から本体に負荷をかけない使い方をすることも重要です。定期点検を行いながら大切にフォークリフトのお手入れを行ってください。